7/31/2016

中国でヴァイオリンを演奏する羽目になり大恥



前回のブログ「G線上のアリア」でヴァイオリンのことを書いたが、私は中国でヴァイオリンで大恥をかいたことがある。

私の現役時代の後半は中国と日本を頻繁に行き来していたことがあった。そんな時代の失敗談である。
私自身も中国と関係を持ち始めた初期の頃で、会話もニイハオ(今日は)、シエシェ(ありがとう)ハオツー(おいしい)程度しかできない。職場も自前の工場ではなく、5階建てのオンボロビルの一階と4階を借りて操業していた。場所は深圳と言っても特別区ではなく、宝安(バオアン)地区、古い町並みは残っているがホテルやデパートもある。滞在期間は毎回1〜2週間だったが、土日の休日もあり、そんな時はマクドナルドを食べに行ったりしたものだ。本屋も見つけ何回か店に通った。もちろん本は読めないのだが、興味深かったので。珍しいと思ったのは床に座って本を読んでいる人が、何人かいたこと。床はコンクリートだし、外から土足で入ってくるわけで、それほど綺麗にしてあるわけでもない。椅子も無いし、ゴザもない、そんな場所に当然な様子で”あぐら”をかいて読んでいるのをみて、日本では”立ち読み”だけれどこちらでは”座り読み”なんだ! と妙に感動したことがある。もっともその後職場が引っ越して珠海になった時、洪北(ゴンベイ)の地下にある大きな書店では床に座る人は見かけなかったから、例外的な特殊ケースだったのかもしれない。

話が横にそれてしまった、その本屋の隣が楽器屋だったのだ。楽器屋は探していたのだが、なかなか見つからない、灯台下暗しである。間口が狭く地味だったので見つけにくかったのかもしれない。入ってみると奥は広くピアノやオルガンも置いてある、壁にヴァイオリンを下げたコーナーもあった。珍しいのでそばに寄って見る。高級感はなし、どれも中国の職人さんが作ったものだろう。幾つか変わった形の楽器があった。胴の肩がガンバのように”なで肩”なのだ。コントラバスの”なで肩”を思い出してもよい。しかし弦は4本だしフィレットはない。とりあえずヴァイオリンなのだ。胴体の裏板はヴァイオリンのような膨らみがなく、平らな一枚板、それに肖像画が刻印してあるものまである。それにその肖像は見覚えがあるような気がする。指先で触ってほり具合を確かめていると「ベードーフエン」と後ろから声がかかった。なるほどベートーヴェンなら 見覚えがあるのももっともだ。
しかしガンバ風ヴァイオリンでベートーヴェンの肖像とは実にちぐはぐ。

振り向くと店員が立っていた。ヴァイオリンの弓を持ってきてくれたのだ。ニコニコしながら手渡してくれた。手渡し方が慇懃すぎる気がして、ちょっと気になったが、音を出してもよいということだ。試してみよう。一番ヴァイオリンぽい楽器を取り上げ、弦を弾いてみると案の定音程はバラバラ、近くにピアノがないので、A線を適当に合わせた。後はAとE、AとD、DとG線を重音で合わせた。ヴァイオリンニスト達がよくやる方法だが、その時はそれしか方法が無かったので、見よう見まねでやっただけ。
とりあえず調弦終りということで後ろに振り向きかけたら、突然パチパチと拍手が起こった。見ると5〜6人の店員とかお客らしい人達がこちらに向かって拍手をしている。また間の悪いことに店内の床に段差があり、私の立っている場所は階段で2段ほど高くなっているので、小さな舞台に上がっているような感じなのだ。
「違う違う!音を出してみたいだけだ」と言いたいが、言葉がわからん!、お客たちは期待感を持った目で見上げている。弓を持ってきてくれた店員を探すも見つからない。エイ!音階でも鳴らしてみよう。下手さがわかって許してもらえるだろう。

ぎこちなく音階を鳴らしてみた。駒の高さと指板の位置がおかしいので音が出しずらいのだ。楽器を横の台の上に置こうとすると、怒鳴り声が聞こえる。よくわからないが「途中で止めるな!」と言っているようだ。そしてまた拍手。ここまできたらもう仕方がない、とにかく弾いてみよう。バッハのメヌエット、半世紀ほど前に練習した曲だが、なんとか弾けるのが不思議、しかし音程などフラフラ、音色うんぬんなどおこがましい、ギーギギギギ  ガーガーガー  ビービビビビ ズーズーズー   「こりゃダメだ思ったよりヒドイ」下手は当然として楽器もひどいのだ。しかし言い訳するにも中国語の壁、これはもう脱出するしかない。楽器を横の台に置き、出口へ向かって一目散、お客さんたちは呆気にとられているようだが、そんなのかまっているヒマはない、脱出成功、そのまま20メートルほど先の交差点付近で止まった。

「誰も追いかけてこない」そんなの当たり前! 汗が噴き出してくる。初夏の宝安は気温も湿度も高いのだ。その店へはその後半年ぐらいは恥ずかしくて行くことができなかった。中国語さえできればこんな事にはならなかっただろう。今想い出すだけでも顔が赤くなってしまう。
宝安の商店街

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