1/29/2016

ERのテスト

ソプラノリコーダーにERのマイクを取り付けた状態

ER(エレクトリック リコーダー)をHRCの練習に持ち込んでテストしてみた。
機材はいつもの
コンデンサーマイクロホン 自作品 DIRECT-3
ギター用マルチエフェクター  BOSS GT-001 
アクティブPAシステム MACKIE SRM150

1、浜辺の歌
クラリネットが主旋律で、サイレントギターが伴奏、ギターは小型のアクティブスピーカー(アンプ付のスピーカー)を使用している。
これにテナーリコーダーがオブリガートで加わるのだが、クラリネットの音量に負けてほとんど聞こえない。ここでテナーリコーダーに特製マイクを取り付けて、ERとしてスピーカーから音を出してみた。クラリネットと対等とは言えないが、十分に渡り合える音量になった。ただ自信無く遠慮しながら演奏すると遠慮も拡大されてしまうので、自信を持った演奏が必要。しかし力む必要は全くない。

2、グリーンスリーブス
ソプラノ、アルト、テナー、バスのリコーダー四重奏、本来はそのままで良いはずだが、私はテナーやバスのパワーが不足しているように感ずる。楽器が大きくなった分、息の量もそれなりに増大させるべきだが、人間が演奏するので理屈通りにはいかない。そこで大型の楽器は省エネ設計なのだと思う。ソプラノやアルトのパワーに比べてテナーやバスがパワー不足なのはそのためだろう。
そこでバスリコーダーだけマイクを取り付け音量を上げてみた。
音量のアップはそれほど多くなかったので、演奏者は音量の増大をそれほど感じなかったらしいが、周りで演奏していた他のパートからはバスの響きがはっきり聞き取れ、リズム感よく演奏しやすかったと好評だった。
オーケストラのコントラバスなどはエンドピンを介して床が「グワン」と鳴るほどパワフルだ。それに比べてリコーダーバス群の非力な事、ERを使う理由は十分ある。

3、サンマルティーニ コンチェルト ヘ長調 第1楽章
「ERでコンチェルトを」 などと大風呂敷を広げたので挑戦してみたが、肝心のソロリコーダー(私)がメロメロでは話にならない。ソプラノリコーダーに小型マイクを取り付けた場合、(写真)マイクケーブルが運指の邪魔になるかもしれない。少し工夫が必要になると思う。
何とか練習時間を確保して形をつけたいが、ERの改良とソロリコーダーの両立は難しいかも知れない。

蛇足になるかも知れないが、今回のテストを解説してみる。

本来このエフェクターを使用するエレキギターでは、このエフェクターから出た音のみがスピーカーから増幅されて発音される。
ところが、リコーダーにマイクを取り付けたERはまず通常のリコーダーとしての音が室内に広がり、同時にマイクで拾われた音がエフェクターで加工されて室内に鳴り響く。そのため両者の混合音として聞こえる事になる。

2、グリーンスリーブスの四重奏ではバスをERとして補強している。
ERのスイッチを切れば通常の四重奏として室内に響く事になる。

エフェクターの基本動作では「コンプレッサー」で音量のバラツキを整え、「オーバードライブ」などで音色に変化を付け、「リバーブ」で潤いを追加する。ERのスイッチを入れて音量を現在鳴っているバスと同じ強さとすれば、第2のバス奏者が出現する。この奏者は第1の奏者よりちょっぴり上手い、音色が特徴的で潤いがあり音量が安定している。 観客やソプラノ、アルト、テナーの奏者には二人分の奏者の音が混合されて聞こえ、あたかも第1番目のバス奏者が演奏している音のように聞こえる。

バス奏者だけは少し状況が異なる。直近で自分のバスが鳴っている。場合によっては骨伝導のような形で直接身体に伝わってくる。そのため2番目の奏者の音がブロックされ聞きづらいのだろう。もちろん全体としてのバスの音が聞こえるべきなので、スピーカーを近づけるなどの補正が必要になるが、ハウリングが発生する恐れがあるため十分な注意が必要となる。

Elodyのように変化をつけた音色で独自の楽器としての方向も面白いが、今回のようにリコーダー+αのような使い方もあると思う。
まだ詰めなければならない問題も多いが、全体としては好印象なので、HRCの協力を得てさらにテストを続けるつもり。
31(日)の昼下がりコンサートでは何曲かはこのERを使用することになるだろう。実際に使用してみれば新たな問題点も浮上するかもしれない。

ピックックアップとしての小型マイクロホンは予備も含めいくつか必要になると思う。コネクターの中に電子回路を組み込むという構成上、小型で特殊なパーツも多いけれども調達もめどがついたので、組み立て開始できそうだ。

1/11/2016

エレクトリックリコーダー(ER)



前回はモーレンハウアー社タラソフ氏によるElodyの講義受講を紹介したが、いま手元で実験しているER(Electric Recorder)を紹介します。
写真はアルトリコーダーに取り付けた状態です。

機材の紹介
コンデンサーマイクロホン 自作品 「Shinさんの工作室」で紹介されている DIRECT-3
ギター用マルチエフェクター  BOSS  GT-001 
アクティブPAシステム MACKIE SRM150

システムの結線
マイクのピックアップ部分をマジックテープでラビュームの右下付近に固定する。
マイクのコネクタにケーブルを接続し、エフェクタ(GT-001)のMIC IN へ入力,
エフェクタ アウトよりアクティブスピーカーへ


マイク部分の詳細
中央のピックアップ部は直径6mm程のバックエレクトレットコンデンサマイクロホンの素子を改造し、極細のシールド線を半田付けして8φ 20㎜程のアクリルパイプに封入してある。写真ではさらに楽器への取り付けのための薄いネオプレンゴムのスポンジで挟み込んである。シールド線のもう一方の端はNEUTRIK 社のXLRコネクタに接続されている。ここではコネクタとしての機能は残しつつ、内部に電子回路を組み込んである。これにより全体が高性能なコンデンサマイクロホンとして動作する。
左の青いケーブルはXLRコネクタ付きのケーブルでマイクロホンのコネクタに接続し、エフェクタまで信号を伝達する。ケーブルの長さは自由に延長できる。

このように並べてみると分かることだが、マイクロホンに一部工夫が見られるものの、リコーダーにしろエフェクタ、アンプなど一般に売られている製品を組み合わせただけだ。また専用マイクは取り外し自由だから、アルトリコーダー以外の、テナー、バス、ソプラノなどにも取り付けられ、応用を広げることができる。
Elody は形状やプリントデザインなどから考えて、リコーダーとは別な楽器を目指しているように思える。歴史的な古楽を再現するための楽器を離れて、もっと自由に簡単に演奏そして表現できる楽器。あの奇抜すぎるデザインはそのための必然であったのかもしれない。

その点今回実験しているERは音色に関してはElodyと同じ音が出るので同様に扱うことが可能なわけだが、私はもう少しリコーダーに近い位置を守備範囲にしても良いと思う。リコーダーには古楽の再現という本来の使命があるわけだけれど、近年はそれを離れて、音楽を聴くだけではなく、自ら演奏して楽しむことを可能にする楽器としての役割もかなりの部分を占めてきたように思える。リコーダーオーケストラなどはその典型的な例ではないだろうか。その中にちょっと音色を変えたERが加わるのは面白いのではないだろうか。

リコーダーの音量をマイクロホンやアンプを使用して拡大するのはだれでも考えることだと思うが、意外と多くの問題が発生するのだ。近接してピックアップしたリコーダーの音は意外と単純でつまらない音、実はいつも聴いているのは部屋の残響分も加えた音なのだ。 室内の残響音もピックアップしようとマイクをリコーダーから離すと残響音より先にスピーカーの音をとらえてしまい「ギャー」とハウリングを起こしてしまう。
その点ERでは発音源(ラビューム)から数cmの位置で音をピックアップするのでリコーダーの音量とスピーカーからの音量に圧倒的な差があり、ハウリングに対して安全性が高まる(ハウリングマージンが稼げる)
そのため音色に関してはエフェクターを利用する。

エフェクトの簡単な説明
「コンプレッサー」 音のバラつきを圧縮し、小入力を増幅することで音量を均一化して整える。
「オーバードライブ、ディストーション」 音に歪を加え味のある、あるいは芯のある音にする。
「リバーブ」 音に残響を加える
その他いろいろのエフェクトがあり通常はそれらを組み合わせて使用する。
ここで使用しているエフェクター GT-001 はそれらの組み合わせが200も登録されている。全く信じがたいほどなのだが、エレキギターの長い歴史と多くのミュージシャンの努力の集積だろう。ギター用のエフェクトだからリコーダーでも同じ効果があるとは限らない、個別に試してみるしかないだろう。まるで巨大な森に迷い込んだような気がする。


アイデアを2つほど。
1、バスの補強
リコーダーオーケストラにコントラバスが1本しかないとする。低音部にもう少しパワーが欲しい
コントラバスリコーダー あれだけの躯体を十分鳴らしきるには2倍3倍のパワーが必要だが、人間が演奏する楽器であるからそれは無理、だから極端な省エネ設計なのだ。だから音も弱々しいし、音自体に芯がない。
バスリコーダーに取り付けて実験してみたが、朗々と鳴り響いて実に気持ちがよい。石頭の純血主義者でなければ十分実用性があることを認めるはずだ。
2、リコーダーコンチェルト
サンマルティーニ、ヴィヴァルディなど面白いコンチェルトが存在する。しかしソナタなどはチェンバロ、ガンバをお願いすれば何とか実現するが、コンチェルトのため弦楽合奏などをお願いするのはほとんど無理な話だろう。
リコーダーオーケストラは最近あちこちにできている。リコーダーオーケストラで弦楽合奏の部分を演奏する。ソロリコーダーは音が埋没してしまわないように、ERを使用し音を輝かしく音量もアップする。腕自慢の奏者に演奏させれば、少し変化に乏しく退屈なプログラムに活気をもたらし盛り上がること間違いなし。

現役のプロ音響技術者Shinさんのブログ
音響専門家としてのこだわりやバランスが魅力。Panasonic のエレクトリックコンデンサマイクロホン(ECM)を使用したコンデンサマイクロホンの設計をそのまま使用させてもらった。FETを2個使用する「パナ改fetV」を作るべきなのだが、部品調達の関係で「DIRECT-3」を作ってみた。