5/13/2012

コンドルは飛んでゆく"El Condor Pasa"


 今からウン十年前、私の職場には常にFM放送が流れていた。
当時の私はポピュラー音楽にあまり興味が無かったので、あまり覚えていないのだが、ある時期同じ曲が一日に、10回以上も流れた。サイモンとガーファンクルの「コンドルは飛んで行く」 だ。
まとわりつくような独特の雰囲気で、あまりに頻繁に放送されるので、作業をしている女性にそのことを言うと、にっこりと微笑んで「私この曲大好きなの」と言ったのだ。使用している音階が日本人が固有の音階に極めて近いため親しみを感じたと思われる。しかし私にとってその曲はそれ以前にも聴いた記憶がある。確か労音主催の音楽会だったような気がする。そこでケーナで演奏されたのだ。その当時は後年こんな文章を書くことになるとは夢にも思わなかった。

駅前などで南米系の人達がケーナ等を演奏している。なかなかの演奏だと思うが、通行人は止まらず通り過ぎてしまう。ところがコンドルは飛んでゆく"El Condor Pasa"を演奏すると、立ち止まる人が現れ、結構な数の人達が演奏を聴き、終わると拍手がでたりする。日本に限らず世界的にヒットしたのだからこの曲には特別なエネルギーが備わっているのだろう。最近ふと気がついて愛用しているiPodの中の曲を曲名で並べ替えて見たら、"El Condor Pasa"がなんと10曲も入っていたのだ。
この曲の出生についてはwikipedia にくわしくまとめられている。

南米で伝統的な民謡から世界に向けたフォルクローレが創造されているころスイス国籍のレイモン・テブノーがケーナの音に魅せられ南米ペルーで活動することになる。
彼の著作「ケーナとフォルクローレのラテンアメリカ曲集」はこのブログでも紹介したことがあるが、その中にコンドルは飛んでゆく"El condor Pasa"に関する項目があるので紹介したい。
QUENA  Y  FOLKLORE  LATINOAMERICANO   POR:RAYMOND THEVENOT
LIMA-PERU,  1979

・・・・・・・・以下彼の著作からの翻訳・・・・・・・
数多く議論されてきたメロディ"EL CONDOR PASA"「コンドルは飛んでいく」に関すること

信じられない混乱がアンデスのフォルクローレに存在する。それはほとんどダメな民俗学者たちの高慢さとうぬぼれに原因がある。それらの大部分は民謡であると主張し(もちろん間違いだが)そして本当の作者がだれで有るか知らないのだ。一つのメロディーには2人の異なる作曲者がある場合がある。
幾つかの演奏グループは本来演奏スタイルが定まっている地域からテーマだけをもらって、別の地域のスタイルでそれを解釈してしまう(ペルーに多い)。
同じ曲なのに3っの異なる題名で3っのレコードに記録されている(それぞれの国の要求により)

これは世界に知られたアンデスの曲"EL CONDOR PASA"のケースです、公式に登録されたペルーの作者 Daniel Alomias Roblesが存在するにも関わらず。
 a) アルゼンチンと同様にボリビアでもそのメロディーの起源を主張している。
 b) それはアルゼンチン「民謡」の様なタイトルのレコードで散見されます。
 c) ロス・インカスのディレクターJ.ミルチベルグはエル・インカの名前で"El Condor Pasa"を出している。(彼はただ編曲しただけなのに)あるアルゼンチンのケーナ奏者やヨーロッパで作られたグループではエル・インカを作者として "El Condor Pasa"をレコーディングしている。
 d) アメリカのデュオ「サイモンとガーファンクル」は英語バージョンのバックコーラスとしてミルチベルグのアレンジを使用し、それは世界に大ヒットした。
 e) ある解説者は "El Condor Pasa" を「インカのFox」 あるいはアンデス民謡としてみなしている。
 f) ペルーの民族学者でさえ創作を否定している。いわく、ロブレスはアンデスのいろいろなメロディ ーを組み合わせただけだ。
 g) 通常ペルー人は、はっきりした演奏スタイルが決まっているわけではないのに、クスコ・スタイル で解釈してしまう。

<<真実は>>
オリジナルのスコアは"Daniel Alomias Robles"が所有している。と言うことです。(ペルーのワヌコ出身、1871~1943)
"El Condor Pasa"の著作権は、1933年米国で公式に登録されました。

 オリジナルはピアノ向けで、symphonic poem(交響詩?)のようにアレンジされている
 1)  最初の部分はイントロで1ページ、コンドルの飛翔を思わせる装飾とアルペジオ
 2) そのあとメインテーマがゆっくりのパサカージェ(Pasacalle)で始まります(ロブレス自身が 呼んだ、”インカのFox”とは違う)
 3) そしてそのあとワイノ(Huayno) 「より早く」

この曲がピアノで演奏されるのを聴くとフォルクローレ的ではなく、クラッシックの「アンデスファンタジー」のように感じる。

ペルーのグループがこの曲を解釈した時もっとフォルクローレ的に変える為、色と雰囲気を以下の方法で変更した。
 1) イントロのピアノ装飾の部分を省くこと。
 2) 直接メインテーマでスタートする。それは2度繰り返される
   a) 最初はゆっくりのヤラビ(Yaravi)
   b) 次は同じテーマだが早いパサカージェ(quick pasacalle)
 3)  最後はワイノ(Huayno) 何回か反復される。

私たちは、この新しいバージョンがより民間伝承的でロブレスによって書かれたものよりよく思えることを認めなければなりません。それはさらに最近ペルーで最も一般化されたバージョンです。
 ボリビアとアルゼンチンの奏者は中央部分を省いて "El Condor Pasa"を演奏します。(繰り返されるペルーのパサカージェ部分を省く)
 「サイモンとガーファンクル」に関しては比較する意味が無いでしょう。彼らは最後のワイノ(Huayno)まで省いてしまった。
最後に残る疑問は、中央のメロディー(Yaravi)そして最後のHuaynoがロブレス自身によって作曲されたのか、あるいは彼が聞いた幾つかの民謡に霊感を得て作ったのかと言うことです。

  それはロブレスだけが答える事が出来ることです。
・・・・・・・・以上彼の著作からの翻訳終わり・・・・・・・

私のiPod の中にこの曲が10曲入っているが、それぞれに工夫があり楽しめる。もちろんテブノーの技巧的な演奏やオラルテのじっくり聴かせる演奏など・・・
iTunesストアやAmazonを探すとまだかなりの数を見つける事が出来る、南米のフォルクローレを演奏するグループは必ずと言ってよいほどアルバムにこの曲を加えているのだから。