私の試作したフィアウティ・デコー |
J.S.バッハにはリコーダーのソナタがない。カンタータなどで効果的に使用されている場合もあり、リコーダーが嫌いだったわけではないと思うが、作曲する機会がなかったのかも知れない。そんな中でブランデンブルグ協奏曲の4番や2番はリコーダーを使用している。古い録音の場合フルートが使用されていることが多かったが、最近はリコーダーを使用し他の楽器に伍して堂々と演奏しているのは実に頼もしい風景なのだ。録音されているCDには他の楽器の演奏者と一緒にリコーダー xxxxと演奏者の名前が印刷されている。
しかしここで重大な疑問があることをご存知だろうか。
バッハはリコーダーのパートを通常イタリア語でフラウト(Flauto)、フィアウト(Fiauto),複数ではフラウティ(Flauti)、フィアウティ(Fiauti)のように書いているそうだ。
ところがブランデンブルグの4番の場合ちょっと変わったことが書いてある。
Fiauti d'Echo フィアウティまではわかる。リコーダーの複数だ。デコーは何?
フィアウティ・デコー これでエコー リコーダーの意味だそうだ。
バッハ手書きの楽譜を見てみる。
バッハ手書きの第一楽章 |
第一楽章の上の部分に記入されている題名
"Concerto 4to à Violino Principale, due Fiauti d'Echo, due Violini, una Viola è Violone in Ripieno, Violoncello è Continuo."
独奏ヴァイオリンと二つのフィアウティ・デコーの為の協奏曲第4番 二つのヴァイオリンと一つのヴィオラ・ヴィオローネ、チェロと低音を伴う
リコーダーは歴史の表舞台から一旦は消えてしまいドルメッチによって再興された楽器だ。だから演奏法や製造方法なども一旦途切れてしまいゼロから再構築されたのだと考えて良いと思う。フィアウティ・デコーもその一つだ。リコーダーが2本一組となってつながっている楽器が幾つか発見されているが、これがフィアウティ・デコーだと考えられている。
リコーダーを弱く吹くと音程が低くなってしまうのはリコーダーの性質で仕方がないと思われているわけだけれどもこれを解決する一つの方策がこれなのだ。
2本の楽器を用意し、一方を弱く吹いても音程が下がらないように少し高めに調律しておく。もう一方は通常の調律なので通常はこちらを使って演奏する。弱音が必要なときは高めに調律してあるほうに持ち替えることにより、弱音でも音程を保つことができる。
当時の楽器の写真を掲げておく。2本の楽器がH形に結合されている。
ブランデンブルグ協奏曲はケーテン時代に完成されて演奏されていたらしいが、バッハ自身がこのような2本のリコーダーを使用する奇策な方法を考案するはずもなく、バッハの目の前で器用に2本のリコーダーを演奏して見せた奏者がいたに違いない。バッハはこれにいたく感動し、早速採用したのだろう。第二楽章に強弱の符号が頻繁に現れるから、ここでこの楽器を使用したに違いない。謹厳実直で頑固そうなバッッハがOKしたのだから大変なことなのだ。しかしバッハはそれだけではなかった。何年か後にブランデンブルグ伯に協奏曲を清書して献呈した時にもこのことを忘れず、協奏曲第4番には2本のフィアウティ・デコーを指定したのだ。これはバッハの就職活動の一環と考えられているが、なぜかこの楽譜は棚にしまわれたまま使用されることがなかったらしい。後世発見されて綺麗な未使用の楽譜として見ることができるのもその為だけれど、バッハとしては悔しかったに違いない。
この楽器を再現した演奏がある。以前全曲の演奏を紹介したことがあるが、今回は該当の第二楽章のみの演奏を紹介する。
楽器はPeter van der Poelとフォンヒューネワークショップによって作られ、2本の楽器がV形に結合されている。
2本の楽器は発音の強弱だけではなく音色も差が出るように調整されているとのことである。
H形とV形
バッハ時代は2本の楽器を平行に並べていたので(H形)持ち替えるのは右手と左手で2動作必要となる。
ところが今回再現された楽器はV形に結合されている。ビデオを観察すると左手については通常に持ち替えているが右手は持ち替えることなく指を伸ばしたり縮めたりして楽器を切り替えているのだ。つまり全体で1.5動作で楽器を持ち替えていることになる。
ビデオの二人の奏者はいとも簡単に楽器を持ち替えているので、それならばと私も試して見たくなって試作してみた。
2本の楽器のメーカーも違うし縛ってある紐が目障り、演奏して見ても楽器は重いしバランスは悪い、持ち替えも大変、正確な音程どころではない。残念ながら断念するしかなかった。
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