6/06/2015

フィアウティ・デコーその2

以前ブランデンブルグの4番でフィアウティ・デコー(エコーフルート)を再現した楽器での演奏をブログで紹介した。Voice of Music; original instruments 
その記事をフェイスブックでも紹介したところ、反論の書き込みがあった。それは楽器ではなく演奏形態でエコーを表現するべきではないかとの意見であった。そのままここに転載することも出来ないので、概略を記す。

----------------------Facebookへの書き込み----------------------------
『そのような楽器を作って演奏している人たちも存在するけれども、エコー楽器の指定は現代まで色々例があるが、離れたところで演奏しなければエコー効果はないのではないか。バッハの時代はすでにリコーダーは持ち替え楽器ですから誰でも演奏出来たはず』としていろいろな議論があることも紹介してくれた。

それに対する私の意見(反論)
『エコー効果だけ考えれば他の楽員が離れた位置で演奏するとか、演奏者自身がその楽章のときだけ移動すれば簡単だし音響的にも視覚的にも変化があり楽しめる。実際の演奏や録音でもそのように行われた例があることは十分承知していますし、実質的にはそれも良いと思います。
しかしバッハ自身が 二つのフィアウティ・デコー とわざわざ書いていること、それらしい楽器が現存していること、第二楽章のアンダンテでは"f"と"p"が交互に指定されているのでこの場所がエコー効果必要な場所と思えるのですが、二つのフィアウティ・デコーのパートが"f"も"p"も連続して演奏するように書いてあること(離れて演奏するなら"p"部分だけの演奏でよいはず)  など考慮すると楽器自体でエコー効果をねらったと思いますし、バッハもそれに期待を持っていたのではないでしょうか。』

-----------Facebookでのやり取りは以上です----------------

確かに今回オリジナル楽器を再現したとして演奏している録音は、私が聴いてもそれほど絶大な効果があるとは思えない。(演奏者としては異なる見解かも)
それならば離れた場所で別の奏者が演奏すればエコー効果は簡単に実現できるし、視覚的にも楽しめる。それこそバッハの望んだことなのだと言うのがその方の主旨であると思う。

結局バッハは楽譜に二つのフィアウティ ・ デコーと書き、それらしいい楽器が何点か残されているだけである。バッハ自身によるブランデンブルグ4番の楽譜を2枚示す。



















最初の楽譜は第一楽章アレグロの最初の部分で題名とパートの指定が書いてある。Fiauti d'Echo は2段目3段目である。
"Concerto 4to à Violino Principale, due Fiauti d'Echo, due Violini, una Viola è Violone in Ripieno, Violoncello è Continuo."
独奏ヴァイオリンと二つのフィアウティ・デコーの為の協奏曲第4番  二つのヴァイオリンと一つのヴィオラ・ヴィオローネ、チェロと低音を伴う



















二番目の楽譜は第二楽章アンダンテの始まる部分。パートの書き込みは無いがアレグロと同じ2段目3段目がFiauti d'Echo 
強弱の指定がp--f--p--f と4回も書き込まれている。

その結果として二つの立場が考えられる。
⑴あくまでそのような楽器を再現してみる。
⑵エコー効果を実現することだけに着目し離れた位置で演奏する。
しかし私はバッハが(1)の楽器そのものでエコー効果を出すことを考えたと思う。
現代に生きる私たちからすると結果がすでにわかってしまった。2本の楽器を一台の楽器として使用してエコー効果を出すやり方は、一時的にバッハの興味を引いたものの、他の曲に応用されるとか、楽器自体を改良するとかの発展はなく、そのまま忘れ去られてしまった。袋小路だったのだ。
その点チェンバロやトラベルソの改良はピアノが生まれたり、ベーム式フルートに発展したりして現代につながり大輪の花を咲かせた。
当時はニュートンが活躍したり、ワットが蒸気機関を発明したり、発明や工夫が巷にあふれていたのだ。もちろん後世に多大な影響を与える発明もあったが,そのまま消え去ってしまった発明も多かったに違いない。その一つとして残念ながらフィアウティ・ デコー(エコーリコーダー)も埋もれてしまった。そもそもリコーダー自体が一旦は歴史の表舞台から消えてしまったのだ。

だからブランデンブルグの4番を聴くときは、普通のリコーダーで当たり前の演奏とか、楽器を再現しての演奏、あるいは離れた場所で演奏 など色々な演奏がある。それをそのまま受け取るのではなく、バッハの思い、そして時代の流れを思い出しながら聴くのがより味わい深い味わいとなるだろう。


ちょっと気になったので、楽器屋へ寄ったときスコアのコーナーに行ってみた。Z社の「ブランデンブルグ・・・」があった。スコア自体は新しいが、版は古そう。第4番の始まりの部分でパートを確認すると、Flute 1・/Flute 2 となっており、フィアウティ ・ デコーなどの記載は全く無い。ただ注意して探すと前書きの中に曲の説明があり、バッハはブロックフレーテと記入したとあった。ここでもフィアウティ ・ デコーのことは一言も触れていない。多分このスコアを出版するにあたってドイツ版?のスコアを参考にしたと思われるが、当時の一般常識はこの程度だったと思われる。
今は手元にないので確かめようが無いのだが、当時購入したLPレコードは2本のモダンフルートが競走するように駆け出し、ヴァイオリンがさらに上回るようなスピードで追いかける・・・そんな演奏だったような気がする。

さきに紹介した再現楽器による演奏は、リコーダーだけではなく、弦楽器などもバロック楽器を再現している。手間ひまかけた贅沢な演奏なのだ。もう一度じっくり聴いてみよう。