3/23/2015

第11回フレンドシップコンサート終了

厚木リコーダーオーケストラ

観客席に置かれた古楽器

ゲスト演奏  

フレンドシップコンサート (FSC) が終了した。
2015年3月14日 稲城中央文化センター

今回も色々特色のある団体の演奏が楽しめた。
ここ数年は毎回「多様性」などと書いてきたのだが、その傾向はますます強くなってきているように思われる。新しい部員を迎え入れ合奏することの喜びと緊張感がこちらにも伝わってくるグループ、歴史もあり部員もある程度固定化され、独自の境地を追求しているグループ、ある程度腕に自信のある方達が特定の目的を持って集まったグループなど、この傾向はリコーダーだからこそ可能と思われる。

また今回「交流」という言葉が前面に出てきたが、これはFSCの特徴の一つだろう。これは怪我の功名のようなもので、本番以外の練習場が確保できないため出演者は会場で待機し、観客席から舞台に上がるのだ。午前中のリハーサル以外音を出さないまま舞台に上がるわけで「最良の演奏」には不利な面があるが、他のグループの演奏をすべて聴くことができるわけだし、演奏者達が舞台から目の前の席に戻ってくるわけだから声もかけ易いのではないだろうか。 
さらに一歩進めて、休息時間に「音出しタイム」のようなものを設定し、楽器の音程を合わせたり、他のグループに声をかけたりできると面白いのではないだろうか。

個々のグループを書くと際限が無いので今回初参加のペッパーミューズと私たち平尾リコーダークラブを書きます。

ペッパーミューズ
多分最初はリコーダーからスタートしたと思われるのだが、クルムホルン、ショーム、コルネット、ラケットなどの古楽器を演奏するグループになった。
古楽器を演奏するにはなかなか大変なエネルギーが必要と思われるが着実に演奏技術が上がってきているのがわかる。
それぞれの楽器の形や音色も珍しかったが、クルムホルンだけの合奏では騒々しい音楽が鳴り響くと思っていたのに、意外にも心安らぐ音が広がった。独特のブーンという羽音のような音ではあるが音量的にもあまり大きな音ではない。・・・・菜の花畑にしゃがみこむとミツバチ達の羽音が聞こえてくる・・・そんな感じに聞こえて不思議な体験であった。

平尾リコーダークラブ
「Rond」  モーッアルト グラスハーモニカを含むクインテット K617 の後半部分 編曲は「らぶしゅーべると」さん
個々のパートの仕上がり具合は別として”パート間の対話”はある程度実現できたように思う。この曲の構成が「親しい仲間同士のおしゃべり」のように感じられたし、そのようなことを強く意識して練習したのは今回が初めてだったような気もする。演奏後「面白い曲でしたね」と言われたが、そのことを言い当てているように思う。
「涙のパヴァーヌ」「エセックス卿のガリアルド」 J.ダウランド
この2曲に関してはリュートとリコーダーの組み合わせという定番に頼りすぎたような気がする。
正確に言えばリュートとリコーダー3本との組み合わせで音量的なバランスの問題、また装飾音などの音の変化の自在さがリュートとリコーダー合奏とで異なる。このあたりの問題を詰めきれていなかったのではないだろうか。リュート奏者を擁するグループはまだ珍しいと思うので今後も工夫を積み重ねたいと思う。


他のグループも特色あるグループばかりなのでぜひ来年は足を運んでいただきたい。多分リコーダー三昧の一日になるはずです。

3/06/2015

シェイクスピアはリコーダーを演奏した

シェイクスピアの肖像 全集に使用された

前回の昼下がりコンサートで「リコーダー」は「録音機」の意味で命名されたのだ、との話をした。当然それはいつ頃のことでしょうとの質問が出るはずだけれども、古いことなのでよくわからないと答える訳なのだが、なんとシェークスピアのハムレットにリコーダーについての記述があるのだ。そしてそれはリコーダーに精通しているような書き方なのだ。

中学生頃読んだハムレットの中に「笛」が簡単に演奏できるような「せりふ」があり、これはリコーダーを指しているのだと想像していたことを思い出した。念のために調べてみると日本語の訳文では「笛」となっていたが、シェークスピアの原文の英語では`Recorder`となっていることがわかった。またリコーダーをホイッスル等と区別するためには裏側の親指の音孔の有無が決め手だそうだが、親指の音孔についてもはっきり書き込まれていて、リコーダーである事の動かぬ証拠となっている。翻訳者は坪内逍遥から現代の翻訳者達まで錚々たる顔ぶれの筈だが、多分全員「笛」「楽器」などと曖昧に書いている。
英語の原文では`Recorder` でも日本語訳では「笛」「楽器」などに置き換えられているのだ。これには2つの原因が考えられる。1、翻訳者が `Recorder`をよく理解していない。2、翻訳者は理解していたが読者のレベルを考え、「笛」などに置き換えた。
これはシェイクスピア時代の聴衆の常識レベルと、日本の読者の常識レベルに大きな差があるのは当然で、なるべく同じ共感が得られるよう、翻訳家は苦労しているわけで、当然あり得ることと思われる。しかし「リコーダー愛好家」としての立場の翻訳もあっても良いはずなので、該当部分を訳出してみる。

英語は不得意の上、まして英語の「古文」であるから、いくつかの訳文を参考にしながら「翻訳」し、`Recorder` はリコーダー、`Pipe` はパイプとしてみた。

父である先王が
叔父の現王クローディアスに毒殺された事を知ったハムレットは、復讐を誓うが、悟られないため気が触れたように振舞っている。そんなハムレットを不審に思うクローディアスはハムレットの元学友であるギルデンスターンなどを呼び寄せて、ハムレットの本心を探らせている。

第3幕2場  役者により芝居が行われている。ハムレットにより仕込まれた部分になると、現王クローディアスは怒って席を立ってしまう。芝居は中断され大騒ぎ。ハムレットの作戦が的中したのだ。

ハムレット
Ah, ha! Come, some music! come, the recorders
For if the king like not the comedy, 
Why then, belike, he likes it not, perdy.
Come, some music!
Re-enter ROSENCRANTZ and GUILDENSTERN

「音楽だ!リコーダー(複数)を持ってこい!」(注1)
「王が喜劇がお好きでないなら、・・・多分嫌いだろうから音楽だ!」
   
   ローゼンクランツとギルデンスターンが再び入って来る


・・・ローゼンクランツ、ギルデンスターンとハムレットの会話は省略・・・

Re-enter Players with recorders
リコーダー(複数)を持った役者たちが再び入ってくる

ハムレット
O, the recorders! let me see one. To withdraw with you:--why do you go about to recover the wind of me,
as if you would drive me into a toil?
おう、リコーダー(複数)だ!見せてくれ(注2)。お前に話がある(ギルデンスターンに向かって)
なぜ風上から追い込むんだ。私をわなにかけようとしているんだろう。

ギルデンスターン
O, my lord, if my duty be too bold, my love is too unmannerly.
殿下、自分の職務に忠実すぎたため無作法だったかもしれません。
ハムレット
 I do not well understand that.Will you play upon  this pipe?
俺にはよく理解できない。お前はこのパイプで演奏できるか?(注3)
ギルデンスターン
My lord, I cannot. 殿下 できません
ハムレット
I pray you. お願いだ
ギルデンスターン
Believe me, I cannot. 本当にできないんです。
ハムレット 
I do beseech you. 頼むよ
ギルデンスターン
I know no touch of it, my lord. それに触ったことも無いんです。殿下
ハムレット
'Tis as easy as lying: govern these ventages with your fingers and thumb, give it breath with your mouth, and it will discourse most eloquent music. Look you, these are the stops.
嘘をつくぐらい簡単だよ 指穴を親指と指でおさえる(注4)、そして口から息を吹き込むんだ、そうすれば美しい音を発する。見ろ これがストップだ(注5)
ギルデンスターン
But these cannot I command to any utterance of harmony; I have not the skill.
しかし美しいハーモニーを出すことはできません。スキルが無いんですから。

ハムレット
Why,look you now,how unworthy a thing you make of me! You would play upon me;you would seem to know my
stops; you would pluck out the heart of my mystery;you would sound me from my lowest note to the top of my compass: and there is much music,excellent voice,in this little organ;yet cannot you make it speak.
'Sblood, do you think I am easier to be played on than a pipe?
Call me what instrument you will,though you can fret me, yet you cannot play upon me.
なぜだ、おまえは私の事を価値のないものとして見ていることになる。お前は私をあやつろうとしている。お前は私のストップスを知っていると思っている。お前は私の心の秘密を引き抜こうとしている。お前は私の低い音から最高音の音域まで鳴らせると思っている。この小さなオルガン(注6)には多くの音楽と素晴らしい声が詰まっているが、お前はそれを鳴らすことが出来ない`Sblood` お前は俺がこのパイプより演奏しやすいと思っているのか?俺を楽器に見立ててイライラさせても俺を操ることなんか出来ないぞ。

Enter POLONIUS  ポローニアス入場

God bless you, sir!    ご苦労さん
ポローニアス
My lord, the queen would speak with you, and presently.
殿下、王妃がすぐに話がしたいそうです。


・・・・・原文と翻訳はここまで、以下はわたしの感想と注釈・・・・

この部分リコーダーを話題にしているのは間違いない。パイプとの表現もリコーダーが重複するのを避けているのであって、他の楽器を指しているのではないことは明らかだ。親指も使用する事がわざわざ取り上げられている。
私はこの部分を読んでハムレットが、(つまりシェイクスピアが)リコーダーを演奏出来たと考えるのだが、いかがでしょうか。

役者とリコーダー
役者がリコーダーを持っているのは当然のこととして台本が書かれている。
移動しながらあちこちで演じてみせる当時の劇団は、大道具などは持ち歩けないが、リコーダーは腰に下げていて、他の役者のセリフの後ろでバックミュージックとして演奏したのではないかと想像する。弦楽器などは調弦などの手間もあり専門奏者が必要、リコーダーだからこそ役者でも可能だったと思える。

(注1) 「音楽だ!リコーダー(複数)を持ってこい!」
ハムレットの作戦が的中したのだ。通常なら宮廷の楽団が登場して色々な楽器で音楽を演奏するはずと思うが、彼はなぜリコーダー(複数)を指定したのか。
1、今夜は楽団を準備させてなくて、リコーダー合奏ならいつも自分たちで演奏しているので直ぐに対応できると考えた。
2、劇は中断されたものの観客もまだ残っているので、役者たちが持っているリコーダーで演奏させようと考えた。
この場所だけを読めば1のように考えられるが、この後役者たちがリコーダーを持って再入場してくるので2の意味だったとも考えられる。
両方の可能性があるが、どちらも小さい矛盾を内包しているともいえる。(原本に当たる版が3種類ありそれぞれこの部分微妙に違っている特に最初に出版された版は「リコーダーを持ってこい」というセリフがなくてハムレットが最初からリコーダーを持っている。

(注2)「おう、リコーダー(複数)だ!見せてくれ」
ここでハムレットは役者から借りたリコーダーを手で持つ。

(注3)「お前はこのパイプで演奏できるか?」
パイプはリコーダーのこと、手に持ってギルデンスターンに話しかけている。

(注4)「指穴を親指と指でおさえる」
ここでは`ventages` 指穴と指と言っており、わざわざ親指の使用も指摘している。

(注5)「見ろ これがストップだ。」
ストップとは通常オルガンを操作するための「栓」であるが、ここでは手に持ったリコーダーの指穴を指で開いたり塞いだりしながら「栓」であることを示しているのだ。
通常なら「指」と「穴」だけでも説明できるが、さらに一歩踏み込んで「栓」と楽器の操作部名を示し、後のオルガンにつなげる。

(注6)「この小さなオルガン」
ハムレット自身を小さなオルガンに例えている。俺には(お前が知りたい)多くの音楽と音が詰まっているが、リコーダーすら操れないお前が鳴らすのは無理だよ。
オルガンはリコーダーのような筒の集合体であり、ハムレットはその構造も知っており、リコーダーよりも複雑という意味で自身をオルガンに例えたのだろう。 
リコーダーでストップス(栓)とあえて呼び、ハムレット自身をを操るストップスはお前には分かっていない。そしてストップスで操作するオルガンにつなげた。

シェイクスピアがリコーダーやオルガンの構造について詳しい事がお分かりだろう。当時の劇団にはリコーダーは必需品であり、特に親指によるサミングでオクターブキーのように使用することによって2オクターブ目も弱音で演奏することが可能となる。このことが表現上いかに有効なことか十分に理解していたのだろう。だからこそ「指と親指」のようにわざわざ区別しているのだ。

参考文献
新潮文庫 ハムレット シェイクスピア 福田恆存訳
光文社古典新訳文庫  ハムレットQ1 シェイクスピア 安西徹雄訳