3/02/2019

失われた手稿譜



失われた手稿譜
ヴィヴァルディをめぐる物語
フェデリーコ・マリア・サルデッリ
関口英子・栗原俊秀 訳  東京創元社

ヴェネツィアを離れウイーンで不遇の最期を遂げたヴィヴァルディ、
当時は著作権など確立してなかったので、楽譜は作曲者の元にしっかり保管されていたのだ。ヴィヴァルディ自身は忘れ去られてしまったが、
残された膨大な手稿譜は数奇な運命を辿り、愛書家の貴族やイエズス会士の司祭などを転々として1920年代に発見されるまでの物語。

作者のフェデリーコ・マリア・サルデッリは多方面に活躍する才人で、文学だけで無く、風刺画家としても音楽学者としても評価が高いらしい。バロック音楽のオーケストラ、モード・アンティクオを立ち上げ指揮者を務める。

ヴィヴァルディ研究家としても定評のある人物で、作者自身の「出典に関する注記」によれば、書かれている事象は、ほとんど史実に基づくそうで手稿譜の運命に関しては一部不明の部分があるも大部分は研究者たちの地道な調査によって明らかにされた史料に基づいている。
かなりの部分は司法関係の書類らしいが、それをそのまま使用するわけではなく、実際に目の前で起こっているように物語化されている。
年代順に記述されるのではなく、時代を行きつ戻りつしながら興味深い史実を交えて進行する。   食事の描写や料理のレシピ、イタリア車などにも作者のこだわりがある。具体的な内容を書くことはルール違反になると思うが、1つだけ書きたいことがある。この部分は史実ではなく作者の創作とのことだ。
愛書家の貴族マルチェッロの館へ無政府主義者が追われて逃げ込んでくる。マルチェッロは偶然の成り行きで彼を「かくまう」ことになってしまう。翌日、男がマルチェッロの為、図書室で楽譜を開き口笛で旋律を奏でる、ヴィヴァルディのリコーダーコンチェルトだ。明るく爽やかな曲だった・・・訳者あとがきによればサルデッリ自身もリコーダーを演奏するらしい。

手稿譜は
長い旅路の末に音楽学者により発見されトリノの図書館に収まり、一件落着と思いきや、今度はムッソリーニ率いるファシズムに翻弄されるのだ。



Apple Music 
月額980円で登録してある曲が聴き放題とのこと。ポピュラー系の音楽ならともかく
クラッシックそれもバロック系中心ではメリットはほとんど無いと思っていた。
Vivaldiの曲は
日本でCD中心に聴いても「調和の霊感」」「四季」などが中心でそれほど種類も多くないが、
Apple Musicで”Vivaldi” を検索してみると続々ヒットする。リコーダー、ファゴット、チェロ、オーボエなど多彩な楽器がめじろ押し、サルデッリが指揮する曲も聴ける。これらは再発見された楽譜がかなりな部分を占めるのではないだろうか。「プレイリスト」と称して、良いとこどりで寄せ集めた様な聴き方もできる、気合の入った演奏、多彩な音色で楽しめる。見事なリコーダー、ファゴットの咆哮、暴れまくるチェロ・・・これは多分ヴィヴァルディの曲には観客を喜ばせる要素が込められていて現代の演奏家たちがそれを引き出しているのだろう。

アーノンクールの言葉も引用してみる
「ヴィヴァルディの作品は時にすべての楽器のソロ奏者に至難な要求をしているが、そうした箇所からは、これらの作品が最高の腕をもつ娘たちのために書かれたことがうかがえる。この楽団のレパートリーであった作品が印刷される場合、たいていヴィヴァルディは徹底的にこれを書き直した。手稿譜と印刷譜を比較してみると、たぶん男性向きにするためだろうが、印刷版の方では大幅に技術的な簡略化が行われていることが多いのがわかる。」(古楽とは何か)音楽の友社



0 件のコメント:

コメントを投稿