6/04/2016

ドルニエ228

稲城市に住んでいる。多摩川を挟んで調布市があり、休日などは調布飛行場を離着陸するのであろう小型のプロペラ機をよく見かける。そんな中で双発のプロペラ機が飛行しているのがちょっと気になっていた。
小型の単発機は何種類か飛行しているのだろうが、機体の種類を見分けるほど気にはしていない。
しかし、双発のプロペラ機に注目していたのは訳があった。ものすごくダサい機体だったから。
なぜダサいか、それは主翼の形にあった。
Dornier 228

これは私のかってな思い込みだろうが、空気中にピシリと伸ばした主翼は大空を飛びたいとの機体の意思そのものであると思うのだ。設計者も当然その事を考慮して設計するはず。
ところがその双発機は申し訳なさそうに貧相な翼を左右に伸ばしているのだ。必要以上に自分を卑下しオドオド生きている人物に似ている。
しかしそんな貧相な外見にも関わらず、しょっちゅう見かけるのは、コストパフォーマンスなどそれなりに優れた点もあるのだろう・・・などと考えていた。
機種名を知りたいとの思いはあったが、かっこいいならともかく貧相では、わざわざ調べる気も起こらない。
ところがひと月ほど前、新聞を読んでいたら「双発機エンジン不調で引き返す、調布飛行場」のような小さな見出しを見つけた。通常なら見過ごす記事だが、例の双発機だろうとピーンと感じたのだ。記事では、調布飛行場を離陸した双発機が途中で片側のエンジン不具合の警告ランプが点灯したので、引き返した、乗客乗員は無事であるとのこと。機種名を読んで目が釘付けになった。ドルニエ228  なに! ドルニエ! 
ドルニエ社と言えば、かのツエッペリン飛行船の設計にも関わったドイツの老舗だ。そんな名称がまだ生きていたとは!
ドルニエ社は航空機史上空前絶後の珍機種を作っているのだ。

巨大飛行艇 ドルニエ  DoX  (Dornier DoX)
飛行艇と言うより、客船に強引に翼を取り付け、強力なエンジンを乗せられるだけ乗せたように見える(12基)。当時のエンジンはそれほどパワーが無くかつ不安定であり、機体の材料にしても現在のように軽くて強い材料が揃っていたわけではない。ダイニングルームや寝室付の豪華飛行艇などと言っても結局重量オーバーで、高度100m程度(あるいはそれ以下)しか上昇できなかったらしい。初飛行は1929年10月となっている。169人を乗せて試験飛行した記録があり、掲載の写真はその時の記念写真と思われるが、正装した紳士淑女たちが写っている。こんな危なっかしい機体によく乗る気になったものだとその勇気に感心するしかない。またアメリカへの飛行も試みられ、途中故障故障の連続で、結局到着まで9ヶ月を要したとのこと。
3機製作され2機はイタリアへ納品されたそうだが、こんな機体イタリアでも扱いかねたのではないだろうか、特に記録は残っていないらしい。
Dornier DoX


豪華とスピードを競っていた旅客船のアメリカ行路でのタイタニック号の事故(1912)から10年以上が経過し
ツエッペリン飛行船での行路も開設されて、豪華さは飛行船でも引き継がれていた。
そこへ割って入った航空機ドルニエDoX 豪華さは必然と考えてこのような仕様になったのだろう。巨大飛行艇の誕生、そこがボタンの掛け違いの始まり、本来なら豪華は捨てて簡素とし、スピードと安全を目指すべきだったのだ。
飛行船は豪華ヒンデンブルグ号が爆発炎上する事故(1937)以来運行は中止された。

その後ドルニエ社は競争の激しいこの世界にあって合併や吸収の洗礼を受けるも老舗ドルニエの名前だけはしぶとく生き残ってきたが、ついに倒産、会社名としては消えてしまったが、ドルニエ228の性能を惜しむ声に押されてRUAGエアロスペース社による生産が復活した。
この機体の最大の売りは短距離での離着陸が可能であることであり、それは特許の層流翼(TNT翼)に負っているとのことだ。

休日にベランダで洗濯物を干していたら双発機の機影が見えた。ドルニエ228だ! 新島ー調布の往復に使われているらしい。例の主翼だがドルニエ社の伝統と技術の結晶で「あれが層流翼なんだ」と思えば感慨も湧いてくるし、何と言っても巨人機ドルニエDoXの末裔なのだ。・・・でもやっぱりダサイなあ。

追加、リコーダー吹きとしてはこのまま話を終るわけにはいかない、
ドルニエDoX の初飛行(1929)の3年ほど前、
ドイツ人の弦楽器製作者ペーター・ハルランがイギリスのアーノルド・ドルメッチのリコーダーを見て、独自の運指(ドイツ式)で大量生産を始めたのが1926年、

その大衆性がナチスの注目することとなり多くの行進曲がヒトラーユーゲント鼓笛隊の為編曲された。ベルリンオリンピック(1936)ではカールオルフ作曲のリコーダーと打楽器による演奏でマスゲームが繰り広げられた。・・・この件に関しては別項で書く予定です。

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